ネタバレ度:★★★☆☆
監督・主演:デイモン・ガモー
健康バラエティーのような取っつきやすさ
健康志向の強い妻のおかげで、すっかりヘルシーな食生活になっていたオーストラリアの俳優デイモン・ガモー。
しかし、これから産まれてくる子供には、一般で言われているようなお菓子やシリアルを与えても大丈夫なのだろうか?
そんな疑問に駆られます。
『ホワイトデビル』とも言われるあま〜いお砂糖の是非を、自らを実験台に検証していくノンフィクション・ドキュメンタリー。
ドキュメントといってもかたっ苦しさや単調さはなく、バラエティー番組のような軽妙さで楽しめるように作られています。
デイモン氏のたるんでいくお腹と合わせるかのように、妊娠中の綺麗な奥さんもどんどんお腹が大きくなっていくのが映し出されます。
リア充めっ!
また、彼の体調をサポートし、定期検査をする女医や栄養士さんたちもやたら美人ばかりで、そういう点でも観る側のハードルを下げようとしているのが伺えます(笑)
他のドキュメンタリーは深刻な顔をしたオッサンばかり登場するのがデフォですからね。
あざとい。実にあざとい。
面倒な砂糖の種類や消化吸収の流れといったプロセスも、肝臓が~インスリンが~と教科書のように羅列するのではなく、 CGでデイモンが人の体内に入って行って観察するという、コミカルな解説方法をとっています。
特に最後のド派手なプロモーションビデオじみたエンディングは悪意の塊のような風刺になっていて、一見の価値あり。
「どんだけ砂糖嫌いなんだよwww」と思わず吹き出してしまうほどの怨嗟の念が悪趣味でナイスです。
カロリー神話は真実なのか?
デイモン氏は、04年(米)の『スーパー・サイズ・ミー』(「マクドナルドがマジでクソだってのを証明してやるぜー!」と、ハンバーガーを食べまくって死にかける映画)にインスパイアを受けて本作を制作したとのこと。
基準として、オーストラリア人の平均摂取量であるティースプーン40杯分を60日間摂取していくことに設定します。
全体のカロリー摂取量自体は変えず、アボカドやグラスフェッドの肉や乳製品などの脂肪分からのエネルギーを、糖分に置き換えた形です。
脂肪分が悪者にされて以来、多くの食品に低脂肪をアピールする代わりに、安価な糖類が大量に投入されるようになりました。
そうしてカロリーの帳尻を合わせたというのです。
それに従い、健康にいいというジュースやシリアルをごく普通の量食べるようになった結果――
案の定、というより予想以上の速さでエライことになっていました。
甘く蝕まれていく身体
たった2週間で体重が〇キロ増え、肝機能の数値はみるみる悪化。
実験前からの習慣である、最低限の運動は欠かさなかったのにです。
むしろ悪化していく体調のせいで、運動すること自体に苦痛を訴え始めました。
やがて激しい頭痛やダルさに見舞われるようになり、ぐったりしている姿が映し出されます。
時には嘔吐してしまうほど。
糖分を摂ると数時間は元気になるので、どんどん甘い物が手放せなくなっていく…
反動が来るのをわかっているけれど、苦しみから逃れたくてやめられない止まらない。
まるで躁鬱病患者か麻薬中毒者のようなありさまです。
これは明らかに今一部で話題の機能性低血糖、俗に言う『血糖値スパイク』です。
糖分を摂ると、細胞に取り込むためのホルモンであるインスリンが分泌されます。
しかしたいてい血液内から吸収され過ぎてしまうので、今度は細胞から血液中に放出するためのホルモンが出されます。食後眠くなるのはこのためです。
こうして人は血糖値を調整しているのですが、これがうまく行かず乱高下してしまう症状が『スパイク』と称されています。
強く叩きつけたボールのように、血糖値が急上昇すると、下降も急激になってしまいます。
するとまた慌ててインスリンが出されて血糖値が直滑降……というのを繰り返し、体はバランスを保つのにいっぱいいっぱいになってしまいます。
エネルギーの状態を一定に保てないため、様々な不調が出てしまうのです。
実は筆者もこの血糖値スパイクに長年苦しめられていました。
食後30分後に意識朦朧、最悪気絶するのを繰り返していました(汗)
爽やかだったデイモンの笑顔が、どんどん暗く淀み、チックまで出てくる姿には身につまされる思いでした。
特に彼のようにしばらく糖類を遠ざけていた人は、その耐性も下がってしまうため、余計に反応が大きかったのだと思われます。
また、無理なダイエットや糖質制限をしていた人に顕著なのですが、長らく糖質を避けていると、糖を代謝する能力自体が落ちてしまいます。
人並みの量でここまで体調悪化してしまったのは、相対的に突然大量の糖分を摂取し、体が対処しきれなくなってしまった所以でしょう。
強大な食品メーカーの力
デイモンは砂糖には悪影響などない、という論文を出している科学者へのインタビューにも赴きました。
実験の様子を真っ向から否定しますが、「ところで、あなたの研究には食品メーカーが多額の援助をしているのですよね?」と返すと、途端にバツの悪そうな顔になりました。
そう、業界は自分たちに都合のいいデータを出してくれるよう、常に学会や政界に働きかけているのです。
最も消費者の購買意欲を掻き立てられる砂糖の量を、業界では『至福点』と呼ぶそうです。
その中毒性を最大限に引き出し、依存させることで、砂糖は何にでも入れられる、手軽に美味しくできる調味料となったのです。
アボリジニたちの居住区でも砂糖の中毒は猛威を振るっていました。
それはコーラでした。
それまで野性的な食生活をしてきた彼らが、コーラの販売機と一般的なスーパーができた途端、糖尿病をはじめとした生活習慣病が蔓延したのです。
それに気付いたNPO団体がコーラを始めとした糖分の高い食品を排除した食料品店を設立し、一時的にアボリジニたちは健康を取り戻しました。
しかし、突如政府の補助金がカットされ、立ち行かなくなります。
現在は再びコカ・コーラが幅を利かせ、元の木阿弥へと戻っているとのこと。
デイモンはルポの仕上げとして肥満大国アメリカへ向かいます。
そしてとある炭酸飲料が大量消費されている地域へ取材へ向かいます。
そこでは子供の頃から砂糖の塊のようなそれを毎日何缶も飲み、あまつさえ親が赤ん坊に哺乳瓶へ入れて飲ませるという始末……
そんな生活を続け、18歳にして全ての歯を抜歯しなければならなくなった少年が登場。
キャンピングカーの手術室でボロボロになった歯の治療を試みますが、麻酔が効かず、何回にも分けて抜いていくことになりました。
別れ際の、「それでも今後も飲み続けるよ」という発言に、薄ら寒いものを覚えました。
食糧メジャーが政権に大規模なロビー活動を仕掛けているのは有名な話です。なにせ食の基準を司るFDAですらトップに業界の大物が鎮座してきたのですから……
それでもあなたは糖分を求めますか?
砂糖の影響は、実験が終わってからも2週間ほど続いたそうです。
まさに薬物と同じ禁断症状です。
しかしそれを抜けると、彼は実験前と同じ元気な体とを取り戻しました。
体重もみるみる減少し、出産してスマートに戻った妻とともに、誇らしげにお腹を見せつける笑顔が爽やかでした。爆発しろっ!!
甘い物が大好物な人には「うるせぇ知るかっ!」と雄叫びを上げたくなる内容ですよね。
なにせお菓子は毒物同然、フルーツジュースも駄目、ファストフード? バカなの? 死ぬの? とでも言うようなシーンのオンパレードです(笑)
もちろんどんな食生活を選ぶのかは個々人の自由であり、太ろうが将来病気になろうが、その魅惑的な快楽を優先するのであれば止められません。
生まれつき糖の代謝能力が高い人もいるので、何ら問題なく甘味を楽しんでいる人も存在します。
しかし、慢性的な不調やダイエットに悩み、でも甘い物がやめられない! という人にはとてもいいクスリになる作品です。
もしもあなたが断糖によって健康的な体を手に入れ、仕事にも精進できるようになり、魅力的なパートナーを得られたのならば、この上なく充実した人生を送れるのは間違いないでしょう。
その際は是非とも爆発してください。
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