ネタバレ度★★★☆☆
リーマン・ショックを発端とした世界金融危機の裏側で起こっていたノンフィクション群像劇。
経済入門者に最適な作り
複雑で難解に思われている金融業界の大事件ですが、主人公たちが実態を調査する形でわかりやすく描かれています。
確かにMBS、CDO、サブプライムローン、デリバティブ、空売り、CDS(クレジット・デファクト・スワップ)といった用語を知らないとちょっと苦しいですが、キャラクターが立っているため、単純な社会派サスペンスとして楽しめます。
無知なカモとなった人々、目先の暴利を貪るウォール街の住人たち、真相を追求する金融マンたち…
壮大すぎて別世界のようだった話が、人間ドラマを通すことで身近な社会問題として捉え直すことができました。
勉強する意思があって観るのにも、スタイリッシュで入門編としてとても観やすい作品だと言えるでしょう。
住宅バブル崩壊に迫る主人公たち
4人の男たちを中心とした視点から描かれます。
一人目は、ヘッジファンドを経営する天才的投資家のマイケル。
彼はその卓越した分析能力から不動産バブルの崩壊を見抜き、真っ先に行動します。
銀行家に嘲笑われ、スポンサーに罵られつつも、空売りに備えて一千億円以上もの莫大な額のCDS(後述)を買い漁ります。
自分の力を信じて躊躇なく逆張りできるその胆力は圧巻です。
彼の行動が引き金となり、このマネーショート(空売り)が始まります。
次に登場するのは、マークを中心とした別のヘッジファンドの男たち。
彼らは偶然マイケルの動きを知り、その信憑性を調査することにします。
マークは偏屈でありながらも正義感が強く、儲けるよりも社会悪を暴くために行動を始めます。
そしてサブプライムローンの販売業者や格付け機関に出向き、その恐ろしい欺瞞と対峙することとなります。
狂言回しとして登場するのは、ジャレド・ベネットという銀行マン。
同僚からマイケルの情報を聞き、偶然マークたちと知り合い、CDSの購入を持ちかけます。
最も貪欲で、銀行家としても投資家としても儲けることこそが最優先な男です。
最後に出てくるのが、若手個人投資家の二人と、彼らに協力する元大物トレーダーのベン(ブラッド・ピット)です。
彼らはより大きな投資をするために試行錯誤する中、これまた偶然マイケルの空売りを察知します。
一番若く野心的に行動する、等身大的な立場と言えるでしょう。
サブプライムローンの闇
一言で言うと、銀行による不動産を担保にした低所得者向けの借金システムです。
住宅価格が上がり続けるという幻想の元、明らかに返済能力のない人々にばら撒かれました。
マークは自分たちの情報が正しいか確信を得るために、まずはサブプライムローンの販売業者たちに話を聞きに行きます。
そこで見たのは、ゴーストタウンのような新築住宅開発街と、危ういローンを無責任に売り付け、犯罪自慢のようにそれを語る軽薄な男たちの姿でした。
その審査の杜撰さは凄まじいものでした。
大家のペットの名前を名義人にしたり、担保すらない移民やストリッパーに売り付けたりと、やりたい放題です。
神経質なマークはあまりの不誠実さに怒りを顕にしますが、やがてその常軌を逸した規模の大きさに唖然とします。
当時は低所得者の間で古い家をリフォームして転売するという投資方法が流行っており、市場はどんどん拡大していました。
そして、そんな危険極まりないサブプライムローンを、銀行は金融商品として投資家に売り付けていたのでした。
格付け機関と銀行の癒着
2007年1月11日、100万件以上ものサブプライムローンを元にした債権がデフォルト(債務不履行)に陥ります。
しかし、債権の信用ランクは変わらずAAA。それどころか、むしろその市場価格は値上がりするという逆光っぷりです。
そこでマークたちは、格付け機関へ向かいます。
マークはその矛盾とリスクを追求しますが、返ってきた言葉は「銀行の要求を断ってランクを下げたら、他の格付け会社に仕事を取られる」でした。
それだけならいざ知らず、サブプライムローンが焦げ付き始めると、今度は他の社債などのリスクが低いと思われる金融商品とゴチャ混ぜにし、『CDO』としてセット販売までし始めたからさあ大変。
作中では、悪くなった食材をシチューにすることで食える物にする、と表現されていました。
しかも最終的には、CDOを別のCDOとさらにセットにし、新たなシチュー(合成CDO)として水増しする始末。商品としての実態などないに等しいものでした。
もちろんそれらも格付け機関は優良商品としてお墨付きを付けます。
プロですら大手銀行と格付け機関のコンビネーションに騙されてしまいました。
本来ならその危険性を監督する立場であるはずの格付け機関が抱き込まれていたら、どうしようもありません。
そして一世一代の大勝負!
4つのグループは各々の確信から、CDSを利用して空売りを仕掛けます。
空売りとは、株を買うのではなく借り受け、価値が下がった時に売ってその差額で儲ける手法です。
ローン債権では通常使えませんが、主人公たちは代わりにCDSを利用します。
CDSとはいわゆる金融商品に掛けられる保険のことです。万が一金融商品が値下がりした場合、その損失を保険金で支払ってもらえるというシステムです。
その性質から、『マイナスの株』とも言われていました。
当然月々の保険料も莫大なものになるため、賭けに負ければ巨額の損失を被ります。
マークやベンたちは予想に反して(格付け機関の手心により)値上がりしていく債権に揺らぎますが、ラスベガスで行われた米国証券化フォーラムの調査の結果、経済の負けにベットすることを決断します。
『バブルは弾けた時に初めてバブルだったと判る』と言われます。
平成大不況を体験した日本人からすれば何をやってるんだ……という思いですが、バブルの熱狂とはそういうものです。
歴史は繰り返すとはよく言ったものです。
格付け機関と銀行のズブズブな関係が世間暴き出されたのは、永遠に上がり続けると思われていた不動産価値が弾け飛んだ後からでした。
なにせそんな無茶苦茶なマネーゲームを繰り広げていた業界人たちですらヘラヘラしていたのですから、まるで知識のない一般人が察知するべくもありません。
狂騒の代価
そして、ついにその日が訪れます。
巨大銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻し、多くの債権が紙くずと化し、大勢が家や財産を失いました。
事前にこの世界金融危機を知ることができた主人公たちに去来したのは、勝者となった恍惚ではなく、社会の破綻になすすべもなかったという虚無感でした。
特にマークは罪悪感すら覚え、最後までCDSを売り払うことに躊躇しました。
自分たちだけが助かるために、保険金を支払わせる――それ自体が社会への不実なのではないか……
彼の苦悩とともに、イマイチ他人事のように感じていた狂騒の無情さが伝わってきました。
アメリカの損失だけでも10兆ドル以上とも言われる天文学的な数字です。
そこらの小国なら軽く数個は消し飛ぶスケールですが、その後10年で立ち直ったどころか、新たな好景気に突入したアメリカの耐久力はさすがとしか言えませんね。
まあ日本もアベノミクスの恩恵を受けられたのは一部の大手企業や投資家ばかりなので、アメリカの一般市民にまでそれが及んでいるのかは定かではありませんが……
筆者の友人も今が勝機! と見極め、煽りをくらった日本の株を買いまくり、年収分くらいは儲けたと言っていました。ぐぎぎぃ羨ましいっ……!
おかげで高級すき焼き奢ってもらえたりしましたけどね!
ピンチはチャンスとはよく言ったものです。
生きている内にあと1度くらいは新たな経済危機が訪れると思うので、その時に備えて色々蓄えておこうと誓いました。
知恵と行動力こそが人生のギャンブルに勝つ秘訣なのです。
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