
監督・脚本:白石晃士
ネタバレ度:★★☆☆☆
概要
偶然呪いのビデオを見てしまった友人を助けるため、自らも貞子の呪いを受けた女子大生、倉橋友里(演:倉本美月)。
一方、近所の少年を心配し、伽椰子の棲まう廃屋に踏み入ってしまった女子高生、高木鈴花(演:玉城ティナ)。
およそ人智の及ぶ域ではなくなった悪霊の魔の手から逃れるためには、互いを喰い合わせるしかないという。
勝つのは呪うストーカーか、引き篭もりの地縛霊か……
Jホラーの2大巨塔が、ついに悪夢の対決!
バケモノにはバケモノをぶつけるんだよ!
撮った人が一番ヤバい
監督の白石晃士氏は、多くのB級ホラー映画を撮ってきた監督・脚本家です。
特にフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)の名手で、POV(ブレアウィッチ・プロジェクトなどで有名になった、カメラ撮影者の視点で描かれる形式)も得意としています。
時には自らが俳優としてカメラマンになる事で、独自の表現をしてきた奇才です。
一部でカルトな人気を誇る『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズでは、その卓越した撮影スキルによって、様々な妖怪・悪霊の姿やタイムスリップの瞬間や雑なコラージュ映像のような異界の様子をカメラに収めることに成功しています。
もちろん実話ですよ? 本当です。
一般的な知名度はあまり高くないでしょうが、バカ映画フリークの間では絶大な人気があります。
いつしかニコニコ生放送では毎年夏になると、『コワすぎ』を始めとした白石作品が一挙放送され、みんなでツッコミながら観るのが風物詩となりました。
ネットではファンに『白石くん』の愛称で呼ばれ、このタイトルオチの企画を実現できるのは彼だけだ! と当初から言われていました。
なにせ普段はチンピラみたいな主人公が妖怪をステゴロや金属バットで殴ったり、車で轢き殺そうとしたり、体験者を恫喝して金を握らせて証言を強要したり、ポルターガイストに対して「早く鳴らせやぁ!」と煽ったりしてるような作品を撮ってますからね。
ちなみにこのDQNディレクター工藤さんは、ニコニコ生放送で本作とのコラボ企画においてさだかやと対決しましたが、その際はビデオデッキに向かってバット片手に威嚇していました。
ソーシュール。
そんなこんなで実績を重ねてきた彼が、ついに掴んだビッグタイトルです。
今回も「貞子と伽椰子を使っていったいどんなムチャクチャな話が展開されるんだろう!」とファンはウッキウキでした。
でも蓋を開けてびっくり。
けっこう普通に怖いじゃないかっ!
大人の事情で呪怨のパチモンみたいな映画も撮っていたので、その経験が存分に発揮されていますね。
あと今回、お金があったせいかいつもの雑コラはなかったのがちょっと寂しいです。
めくるめく白石ワールド
序盤はもはやお約束となった貞子と伽椰子の呪殺ターンです。
呪いのビデオがリサイクルショップのボロボロなデッキの中に入っているというのが時代を感じますね。でもカビが生えたりしてて、よりいかがわしさは増しています。
最近は動画投稿サイトに移籍したり、パソコンやテレビ画面をジャックしたりと近代化目覚ましかった貞子さんですが、原点回帰です。
伽椰子の家も、ただの空き家から廃屋と化しており、地縛霊として地味にアップデートしています。
作品によっては俊夫くんの方が本体だったりするようですが、今回は特にその辺りの掘り下げはありませんでした。
何とか呪いを解く方法は無いのかと民族学者の教授を頼ったり霊能者に除霊をしてもらったりするのですが、さすがはハリウッドまでをも震撼させた悪霊たち。
成す術もありません。
特に教授の扱いの酷さには涙を禁じ得ません。
そしてここから始まる白石ワールド。
白石作品にはけっこうパターンがあります。
①悪霊に取り憑かれたヤベー人を軸に話が進む。
②実力のある霊能者が登場する。たいてい死ぬ。
③事件の被害者が大量に出るが、なぜか主人公たちだけは無事。
④世界の存亡を賭けた話に拡大していく。
特に②は通常のホラーとは一線を画します。
他なら素人の主人公が何とか迫り来る死を回避しようと右往左往するのに対し、白石作品ではサクッとプロが助言や対策をしてくれます。
でもだいたい中盤で本気を出した悪霊に殺されてしまうので、そこにいっそうの恐怖を感じるのです。
本作でも、為す術がなくなったかと思われた主人公たちの前に、常磐経蔵(演:安藤政信)という霊能力者が現れます。
盲目ながら鋭い霊探知能力を持った少女・珠緒(演:菊地麻衣)を従えたクールなイケメンです。
主人公への貞子のちょっかい(過呼吸)を軽く祓ったりと、強者の風格がハンパありません。
口が悪いけど実は優しい、という女子の扱い方がすげぇモテそう。
貞子3Dで猛威を奮った彼女の黒髪触手を、躊躇なく切断できるのは彼くらいでしょう。
経蔵たちの提案により、貞子と伽椰子のターゲットをバッティングさせ、呪いを相殺させようと画策します。
合理的なはずなのに、ゴジラと他の怪獣を戦わせようとするのよりも馬鹿っぽく感じるのは何故なんでしょう……?
オレ様系プロフェッショナルといえば、同監督作の『カルト』に登場した最強の霊能力者、ネオ様を思い出したファンも多いことでしょう。
まあ、ネオ様は悪霊側が全く太刀打ちできないほど異様に強くて、途中からジャンプの霊能バトル漫画みたいになってましたが(笑)
本作の経蔵と珠緒のコンビも、登場の仕方がネオ様と似通っていて、「また無双するのでは? でもこのビッグタイトルでいいの…?」と色んな意味でハラハラドキドキしました。
さて、その顛末は…?
妖怪プロレス
そんなこんなで、いよいよ居酒屋で酒でも飲みながら考えたような対決が始まります。
貞子の呪いのビデオを伽椰子の家に持ち込み、それぞれの呪いにかかっていた主人公たちがあえてダブルブッキングを受けるという作戦です。
思惑は見事に成功。獲物を盗られんと、二人の黒髪美人(生前)の世にも恐ろしいキャットファイトの開幕です。
まずは主人公たちを脅かしに出てきた俊雄くんを、貞子が牽制とばかりにボッシュート。
我が子がやられたのに怒ったのか、いつもの奇声を発しながら伽椰子が階段を降りてきます。貞子のビデオテープを握り潰したりと、煽り合いは充分です。
一度は貞子が伽椰子を倒したかと思いきや、あっさりリスボーン。まさかの無限湧きかよ。
そればかりか、争い合う中でも余裕で殺しに来る悪霊たち。
追い詰められた経蔵は、最後の手段に出ることになります――
結果としては、「あ〜あw」という慄きつつも笑ってしまうオチでした。
でも白石ワールドを前提にすると、異様に納得もできてしまうところが恐ろしいです。
白石ホラーでは、全ての妖怪や悪霊は根源が同じもので、異界のエネルギーが現世に侵略してくるために人の怨念が利用されている、という描き方がされています。
たかが元人間程度が、そんな無体な能力を持てるはずがない、というのが持論のようです。
筆者もやりたい放題に殺しまくる無敵の悪霊というのが好きではないので、そういう恐怖以外の理不尽感も感じずに済みました。
有るのは異界に対する畏怖のみです。
今回もそれを全面に押し出しつつ、冷静に考えるとギャグ、という素晴らしい着地点でした。
やはり全ての怨念は繋がっているのか……
さだかやを観に行った一般観客も、監督のファンも文句なしに楽しめる凄まじさだったと思います。
ようするにこれ、怪獣映画だもん
ちなみに白石映画のヒロインは『胸が薄くて美脚』という暗黙のルールがあるのですが、表舞台に立ってもその性癖を貫いていたのは好感が持てます。
また同じような機会があるなら、是非とも同格の力を持った『着信アリ』の美々子を交えた三つ巴の戦いを描いてみてほしいものです。
ゴジラVSモスラVSキングギドラに匹敵する阿鼻叫喚が繰り広げられること請け合いです。
正気の沙汰ではないって?
正気とは投げ捨てるものなのです。
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